
親子で楽しむ着物遊び:子供と一緒に学ぶ和の作法と着付け
現代の日本では、着物を着る機会が少なくなりました。
しかし、その美しい姿や奥深い文化は、私たち日本人の心に深く根ざしています。
親から子へ、そしてそのまた子へと受け継ぎたい大切な文化の一つが着物です。
この記事では、「親子で楽しむ着物遊び」をテーマに、子供と一緒に和の作法や着付けを学び、日本の伝統文化を体験する豊かな時間をご提案します。
親子で着物を着ることは、単に和装を楽しむだけでなく、日本の伝統文化への理解を深め、親子の絆を育む貴重な機会となります。
七五三やひな祭り、お正月といった特別な日から、ちょっとしたお出かけまで、着物を日常に取り入れるヒントをたっぷりご紹介します。
なぜ今、親子で着物遊びなのか?

着物遊びは、子供たちの好奇心を刺激し、五感を豊かにするだけでなく、多くの学びを提供します。
1. 日本の伝統文化に触れる
着物は、染めや織り、刺繍といった職人の技術の結晶であり、日本の歴史や美意識が凝縮されています。親子で着物について学ぶことは、日本の伝統工芸や文化、そして季節感への理解を深める第一歩となります。
2. 和の作法とマナーを学ぶ機会
着物を着ることで、自然と立ち居振る舞いが丁寧になります。正座の仕方、お辞儀の仕方、歩き方、物の持ち方など、和の作法を身につける絶好の機会です。子供たちは、着物を着ることで、いつも以上に「きちんとする」ことを意識するようになります。
3. 親子のコミュニケーションと絆を深める
一緒に着物を選び、着付けをし、お出かけをする過程は、親子の貴重な共同作業です。着物について語り合ったり、お互いの着物姿を褒め合ったりすることで、普段とは違うコミュニケーションが生まれ、親子の絆がより一層深まるでしょう。
4. 非日常の体験と自信
着物を着ることは、子供にとって非日常の特別な体験です。いつもと違う自分にワクワクし、新しい発見や感動が生まれます。周囲から「素敵だね」と声をかけられることで、自信を持つきっかけにもなります。
5. 豊かな感性を育む
着物の色柄や素材、帯や小物の合わせ方など、着物には無限の組み合わせがあります。親子で着物を選ぶことは、色彩感覚や美的センスを磨き、豊かな感性を育む手助けとなります。
親子で着物を始める:準備と選び方

親子で着物遊びを始めるにあたって、まずは準備と着物の選び方から見ていきましょう。
1. 子供用着物の種類と選び方
子供用着物には、年齢や着用シーンに合わせた様々な種類があります。
- 赤ちゃん・乳児期(お宮参りなど):
- 祝い着(産着・初着): お宮参りなどで赤ちゃんに掛けてあげる着物です。華やかな柄が多く、男の子用は鷹や兜、女の子用は熨斗や手毬などが定番です。実際に赤ちゃんに着せるのではなく、着物の上に羽織らせて使用します。
- 幼児期〜小学生低学年(七五三、ひな祭りなど):
- 三歳: 被布(ひふ)と呼ばれるベストのようなものを着物の上に羽織るスタイルが一般的です。帯を締めないので、子供も苦しくなく動きやすいのが特徴です。
- 五歳: 男児の七五三で着用する羽織袴(はおりはかま)スタイルです。凛々しい姿は、男の子にとって特別な体験となるでしょう。
- 七歳: 女児の七五三で着用する振袖です。大人顔負けの豪華な帯結びをします。
- 子供用小紋: 普段使いやちょっとしたお出かけに最適です。綿素材やポリエステル素材など、扱いやすいものを選ぶと良いでしょう。
- 子供用浴衣: 夏祭りや花火大会など、夏のイベントに大活躍します。
- 選び方のポイント:
- 素材: 子供は汗をかきやすいので、吸湿性や通気性の良い綿素材や、自宅で洗濯できるポリエステル素材がおすすめです。絹の着物は美しいですが、お手入れが大変なので、最初はポリエステルなどから始めるのが良いでしょう。
- サイズ: 子供は成長が早いため、購入する場合は「肩上げ(かたあげ)」や「腰上げ(こしあげ)」をして、成長に合わせて丈を調整できるものを選ぶと長く使えます。レンタルも賢い選択肢です。
- デザイン: 子供が自分で「着たい!」と思えるような、好きな色や柄を選ばせてあげましょう。ポップな柄やキャラクターものも最近は増えています。
- 着心地: 子供が窮屈に感じず、動きやすいものを選ぶことが大切です。特に帯を締めない被布や、兵児帯(へこおび)を合わせる浴衣などは、子供も嫌がりにくいでしょう。
2. 親の着物の選び方
子供の着物の格に合わせて、親の着物も選びましょう。親子で雰囲気を合わせることで、一体感が生まれます。
- フォーマルな場(七五三、入学式・卒業式など):
- 訪問着: 未婚・既婚問わず着用できる準礼装です。華やかな絵羽模様が特徴で、お祝いの席にふさわしい装いです。一つ紋を入れるとより格式が高まります。
- 付け下げ: 訪問着よりも柄付けが控えめで、一つ紋を入れることで準礼装として着用できます。
- 色無地: 地紋のある色無地に一つ紋を入れると、入学式・卒業式や七五三など幅広いフォーマルシーンで活躍します。
- カジュアルな場(お正月、ひな祭り、古民家カフェ巡りなど):
- 小紋: 日常使いに最適な普段着の着物です。お子様の着物の色柄とリンクさせたり、レトロな雰囲気の小紋を選んだりすると、お揃い感が増します。
- 紬: 素朴で温かみのある風合いが魅力の織りの着物です。丈夫で動きやすく、カジュアルなシーンにぴったりです。
- 木綿着物: 自宅で洗えるものが多く、最も気軽に楽しめる普段着の着物です。親子でお揃いの柄にするのも可愛いです。
- 浴衣: 夏場のイベントには親子で浴衣がおすすめです。
- 素材: フォーマルな場では絹が基本ですが、カジュアルな場ではポリエステルや綿素材もおすすめです。
- 色柄: 親子で完全に同じ柄にする必要はありません。色合いを合わせたり、同系色でまとめたり、あるいは柄のモチーフを揃えたりするなど、さりげないリンクコーデを楽しむのがおしゃれです。
3. 着物以外の準備物
- 肌着・襦袢: 着物の下に着用するものです。子供用は肌着と襦袢が一体型になったものや、肌着代わりにタンクトップなどでも代用できます。
- 足袋: 白足袋が基本ですが、カジュアルなシーンでは柄足袋やレース足袋なども楽しめます。
- 帯: 子供は兵児帯や作り帯(着付けが簡単な帯)がおすすめです。大人は着物の格に合わせて袋帯や名古屋帯を選びます。
- 草履・下駄: 子供用は、鼻緒が柔らかく、脱げにくいものを選びましょう。
- 小物: 帯締め、帯揚げ、髪飾り、巾着、バッグなど。子供用の可愛らしい小物もたくさんあります。
親子で学ぶ着付け:実践編

親子で着物遊びを始めるなら、簡単な着付けから挑戦してみましょう。子供と一緒に着付けをすることで、着物の構造や着付けの楽しさを学ぶことができます。
1. 子供の着付け:簡単ステップ
子供の着付けは、大人よりもシンプルです。特に被布や兵児帯を使う場合は、難しい帯結びも不要です。
- 肌着・裾よけを着用: まずは肌着を着せます。丈が長い場合は、裾をまくって調節します。
- 長襦袢を着用: 襟元が美しく見えるように、背中心を合わせ、裾線を整えます。伊達締めなどで固定します。
- 着物を羽織る:
- 着物を羽織らせ、袖を通します。
- 裾線を決め、身丈を合わせます(腰上げで調整)。
- おはしょり(余分な布)をきれいに整えます。
- 襟元を合わせ、肩上げが肩の位置に来るように調整します。
- 紐でしっかりと固定します。
- 帯を締める(七歳振袖以外):
- 兵児帯の場合: 柔らかい兵児帯を胴に巻き、蝶々結びや簡単なリボン結びにします。子供が苦しくないように緩めに締めます。
- 作り帯の場合: 胴に巻く部分を締めてから、お太鼓の部分を差し込むだけで完成します。
- 被布を着せる(三歳の場合): 着物の上から被布を羽織らせます。
- 足袋を履かせ、草履を履く: 足袋を履かせ、草履を履かせれば完成です。
2. 親の着付け:ポイントと練習
大人の着付けは、子供よりも工程が多いですが、基本的な流れを掴めば自宅でも着付けられるようになります。
- 肌着・裾よけを着用: 和装用の肌着と裾よけを着ます。
- 長襦袢を着用: 襟元を抜き、衣紋をきれいに作ります。
- 着物を羽織る:
- 着物を羽織り、背中心を合わせます。
- 裾線を決め、腰紐で固定します。
- おはしょりをきれいに整え、胸紐で固定します。
- 伊達締め、帯板などで形を整えます。
- 帯を締める: 着物の格やシーンに合わせて袋帯や名古屋帯を締めます。帯結びは、お太鼓結びが基本ですが、様々な結び方があります。
- 帯締め・帯揚げを整える: 帯の上から帯締めを締め、帯枕を覆うように帯揚げを整えます。
- 足袋を履き、草履を履く: 足袋を履き、草履を履けば完成です。
- 親子で学ぶ着付けのコツ:
- 焦らない: 最初から完璧を目指さず、少しずつステップアップしていきましょう。
- 楽しみながら: 遊び感覚で着付けをすることで、子供も飽きずに取り組めます。
- 写真や動画を撮る: 自分の着付け姿を客観的に見ることで、改善点が見つかります。
- 褒める: 少しでも上手にできたら、たくさん褒めてあげましょう。子供のやる気を引き出します。
3. 着付け教室やイベントへの参加
もし自宅での着付けが難しいと感じる場合は、親子で参加できる着付け教室や、子供向けの着物イベントを探してみるのも良いでしょう。
プロの指導を受けることで、正しい着付けを効率的に学ぶことができます。
親子で学ぶ和の作法とマナー

着物を着ることは、和の作法やマナーを学ぶ良い機会です。子供と一緒に実践することで、自然と美しい立ち居振る舞いが身につきます。
1. 立ち居振る舞いの基本
- 姿勢: 背筋を伸ばし、顎を引いて立ちます。肩の力を抜いて、リラックスした姿勢を心がけましょう。
- 歩き方: 小股で歩き、内股気味に足を運ぶのが基本です。着物の裾を踏まないように注意し、すり足でゆっくりと歩きましょう。
- 座り方:
- 正座: 基本中の基本です。膝を揃え、足の甲を地面につけ、背筋を伸ばします。
- 椅子に座る場合: 帯が潰れないように浅めに腰掛け、背もたれに寄りかからないようにします。袖が床につかないように注意しましょう。
- 物の拾い方: 中腰になり、片手で膝を押さえながら、もう一方の手でゆっくりと物を拾います。
- 階段の昇り降り: 裾を軽く持ち上げ、ゆっくりと一段ずつ昇り降りします。
2. 食事のマナー
- 袖の処理: 食事中は、袖が料理や器に触れないように、着物クリップなどで袖を留めるか、片手で袖口を押さえながら食べましょう。
- ナプキン・ハンカチ: 膝の上にナプキンやハンカチを広げ、食べこぼしを防ぎます。
- 姿勢: 食事中も背筋を伸ばし、猫背にならないように注意します。
- 飲み方: お茶碗やお椀を持つ際は、両手で丁寧に持ち、音を立てないように静かに飲みます。
3. お手洗いのマナー
- 着物の裾や帯を汚さないよう、ゆっくりと慎重に行動します。
- 裾をたくし上げ、帯を汚さないように注意します。必要であれば、着物クリップで固定したり、帯を前で抱えたりするのも良いでしょう。
4. 挨拶とお辞儀
- 挨拶: 相手の目を見て、笑顔で挨拶をしましょう。
- お辞儀: 会釈(15度)、普通礼(30度)、最敬礼(45度)など、状況に応じて使い分けます。背筋を伸ばし、頭を下げすぎないように、丁寧にお辞儀をします。
5. 親子で実践するポイント
- 遊び感覚で: 「着物を着たら、お姫様みたいにゆっくり歩くんだよ」「忍者みたいに静かにお辞儀してみよう」など、子供が楽しめるように声かけをしましょう。
- お手本を見せる: 親が率先して美しい作法を実践することで、子供は自然と学びます。
- 繰り返し練習: 一度で完璧にならなくても大丈夫です。何度か着物で外出するうちに、自然と身についていきます。
- 褒めて伸ばす: 小さなことでも、上手にできた時には褒めてあげましょう。子供の自信につながります。
親子で楽しむ着物遊び:おすすめのシーンとアイデア

着物を着る機会は、特別な日だけではありません。日常の中に着物を取り入れることで、より豊かな体験が生まれます。
1. 季節の行事を楽しむ
- 七五三: 親子で晴れ着を着て、お子様の成長を祝う最高の機会です。親も着物を着ることで、思い出がより一層特別なものになります。
- お正月: 親子で着物を着て初詣に出かけたり、おせち料理を囲んだり。日本の伝統的なお正月を存分に味わいましょう。
- ひな祭り: 女の子がいるご家庭なら、お雛様と一緒に着物姿で写真を撮るのも良い思い出になります。
- 端午の節句: 男の子は兜や鯉のぼりと一緒に、紋付袴姿で記念撮影をするのも素敵です。
- 花火大会・夏祭り: 親子で浴衣を着て出かけるのは、夏の最高の思い出になります。
2. 和文化体験を楽しむ
- お茶会・お稽古事: 茶道や華道などのお稽古事を始めるなら、着物で参加するのは格別です。子供向けの体験教室も増えています。
- 和菓子作り体験: 着物を着て和菓子作りに挑戦するのも良いでしょう。日本の食文化にも触れることができます。
- 伝統工芸体験: 染め物体験や陶芸体験など、着物を着て日本の伝統工芸に触れることは、子供にとって貴重な体験となります。
- 歌舞伎・能鑑賞: 着物姿で伝統芸能を鑑賞することで、より一層その世界観に浸ることができます。
3. お出かけを楽しむ
- 古民家カフェ巡り: 前述の通り、着物と古民家カフェは相性抜群です。レトロモダンな空間で、ゆったりとした時間を過ごしましょう。
- 神社仏閣巡り: 歴史ある神社仏閣に着物で訪れることで、その場の厳かな雰囲気や美しさをより深く感じることができます。
- 観光地巡り: 京都や金沢、鎌倉など、和の風情が残る観光地では、着物姿が絵になります。
- 美術館・博物館: 着物で静かに芸術鑑賞をするのも、大人の楽しみ方です。子供向けのアートイベントも増えています。
- 写真撮影: プロのカメラマンに依頼して、着物姿の家族写真を残すのも素晴らしい思い出になります。
4. 日常のワンシーンに取り入れる
- おうちで着物: 最初は、休日に自宅で着物を着て過ごすことから始めてみましょう。子供の絵本を読んであげたり、おやつを食べたりと、日常の延長で着物のある暮らしを体験できます。
- 家族写真: 何でもない日の家族写真も、着物を着るだけで特別な一枚になります。
着物のお手入れと保管:長く愛用するために
着物を長く美しく保つためには、適切なお手入れと保管が不可欠です。
1. 着用後のお手入れ
- 陰干し: 着用後はすぐに畳まず、風通しの良い場所で陰干しをして、湿気や匂いを飛ばしましょう。直射日光は色褪せの原因になるので避けましょう。
- 汚れの確認: シミや汚れがないか、全体をチェックします。汗ジミは特に注意が必要です。
- 軽い汚れ: 軽い汚れは、乾いた清潔なタオルで優しく叩くように拭き取ります。ゴシゴシ擦らないように注意しましょう。
- シワ伸ばし: 軽く霧吹きをかけ、手で優しくシワを伸ばします。アイロンをかける場合は、必ず当て布をして、低温で短時間で行います。
2. 長期保管のポイント
- クリーニング: シミや汚れがある場合は、専門のクリーニング店に依頼しましょう。特に汗ジミは時間が経つと黄ばみに変わってしまうので、早めの対処が肝心です。
- たとう紙: クリーニングから戻ってきた着物は、新しい**たとう紙(文庫紙)**に包んで保管します。たとう紙は吸湿性に優れており、着物を湿気から守ってくれます。
- 防虫剤: 防虫剤は、着物に直接触れないように、たとう紙の外側や衣装ケースの隅に置きます。種類の異なる防虫剤を一緒に使うと、化学反応を起こして着物を傷めることがあるので注意しましょう。
- 保管場所: 湿気が少なく、風通しの良い場所に保管します。桐箪笥(きりだんす)が最適ですが、衣装ケースでも構いません。定期的に虫干しを行うと、着物の状態を保てます。
- 重ね方: 着物を重ねる場合は、重みが均等にかかるように、なるべく少ない枚数で重ねましょう。
3. 子供用着物のお手入れ
子供用着物も、基本的なお手入れ方法は大人用と同じです。特にポリエステルや綿素材のものは、自宅で洗濯できるものが多いので、洗濯表示を確認して適切にケアしましょう。
親子で楽しむ着物遊びまとめ
親子で着物遊びをすることは、日本の伝統文化に触れるだけでなく、親子の絆を深め、子供たちの豊かな感性を育む素晴らしい機会です。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、大切なのは完璧を目指すことではなく、一緒に楽しみながら学ぶことです。
着物を着て、季節の行事を楽しんだり、和文化を体験したり、あるいは何でもない休日のお出かけをしてみたり。
親子で着物を着る時間は、きっと忘れられない思い出となり、子供たちの心に日本の美意識を深く刻み込むことでしょう。
さあ、あなたもこの機会に、お子様と一緒に着物の世界へ一歩踏み出してみませんか?
着物を通して広がる新しい発見と感動が、きっとあなたとご家族を待っています。
(記事制作者:廣田 )