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季節の変わり目に!プロが教える着物収納術:湿気・虫食いから守る

季節の変わり目に!プロが教える着物収納術:湿気・虫食いから守る

日本の美しい伝統衣装である着物は、世代を超えて受け継がれる大切な財産です。

しかし、デリケートな絹や綿、麻などの素材でできているため、適切に保管しなければ、湿気によるカビやシミ、虫食い、そして型崩れといったダメージを受けてしまいます。

特に、季節の変わり目は、温度や湿度の変化が大きく、着物が傷みやすい時期。

この記事では、大切な着物を長く美しく保つための、プロの着物店や悉皆(しっかい)屋が実践する着物収納術を徹底解説します。

正しいお手入れと保管方法を身につけて、湿気や虫食いから着物を守り、いつでも気持ちよく着られる状態を保ちましょう。


なぜ着物収納が重要なのか?

着物収納の重要性を理解することは、適切なケアを行うための第一歩です。

着物がデリケートな性質を持つ理由と、保管時の主な脅威を知っておきましょう。

1. 湿気:カビとシミの最大の敵

日本は湿度が高い国であり、特に梅雨の時期や夏場は、着物にとって過酷な環境です。

  • カビ: 湿度が60%を超えるとカビが発生しやすくなり、70%以上で繁殖が加速します。カビは一度発生すると、着物の繊維に入り込み、シミとして残ってしまうだけでなく、独特の臭いを放ちます。特に、目に見えにくい部分や、通気性の悪い場所に生えやすいので注意が必要です。
  • シミ: 湿気は、着物に残った汗や皮脂汚れ、わずかな食べこぼしなどを酸化させ、黄ばみや茶色いシミへと変質させる原因となります。

2. 虫食い:着物の穴あきの原因

衣類を食べる害虫、特に衣類害虫と呼ばれるヒメマルカツオブシムシイガの幼虫は、絹やウールなどの動物性繊維を好んで食べます。

  • 繁殖: 暖かく、暗く、湿気の多い場所を好み、一度発生するとあっという間に増殖してしまいます。
  • ダメージ: 小さな穴を開けるだけでなく、広範囲にわたって繊維を食い荒らすこともあり、大切な着物が修復不可能な状態になることもあります。

3. 型崩れ:美しいシルエットを保つために

着物は、立体的な構造を持つ衣服であり、適切な畳み方や収納方法をしないと、シワが定着したり、生地が伸びてしまったりして、美しいシルエットが損なわれます。

  • 畳み方: 不適切な畳み方は、着用時のラインに影響を与え、着姿を台無しにします。
  • 圧迫: 重ねすぎたり、無理に詰め込んだりすると、着物の繊維が潰れ、風合いが失われます。

着物収納の基本ステップ:着用後のお手入れから始める

着物を収納する前に、最も重要なのが着用後のお手入れです。このひと手間が、着物の寿命を大きく左右します。

ステップ1:着用後の「風通し」と「点検」

  1. 脱いだらすぐにハンガーへ: 着用後すぐに畳まず、和装ハンガー(または肩幅の広い洋装ハンガー)にかけて、風通しの良い場所で陰干しをします。直射日光は色褪せの原因になるので避けましょう。半日〜1日程度干し、湿気や体の熱をしっかり飛ばします。
  2. 全体を点検: 陰干しをしている間に、着物全体を丁寧に点検します。
    • 汚れ: 襟元、袖口、裾、特に帯で隠れるおはしょりの部分、脇などに汗ジミや食べこぼし、泥はねなどの汚れがないか確認します。
    • シミ: 目には見えなくても、時間が経つと浮き出てくる「隠れシミ」もあります。特に汗は時間が経つと黄ばみになるので注意が必要です。
    • ほつれ・破れ: 縫い目や生地にほつれや破れがないか確認します。
  3. シミ・汚れの対処:
    • 軽い汚れ: 乾いた清潔な白タオルで、軽く叩くようにして水分や汚れを吸い取ります。決して擦らないでください。
    • 汗ジミ: 特に夏場は、汗ジミ対策が重要です。目に見えなくても、汗は着物に染み込んでいます。着用頻度が高い場合や、大量に汗をかいた場合は、必ず専門のクリーニング(汗抜き加工)に出しましょう。一般的なドライクリーニングでは汗の成分は落ちません。
    • ひどい汚れやシミ: 自己判断で対処せず、必ず着物専門のクリーニング店や悉皆屋に相談してください。無理に擦ると生地を傷めたり、汚れが広がったりする可能性があります。

ステップ2:正しい「畳み方」

着物を正しく畳むことは、型崩れを防ぎ、シワを最小限に抑える上で非常に重要です。

  1. 平らな場所で: 清潔で広い平らな場所(畳の上やテーブルなど)に着物を広げます。
  2. 裏返しにする: 一般的に、収納時は裏返しにして畳みます。これは、表面の色褪せや、カビ・虫食いのリスクを減らすためと言われています。
  3. しわを伸ばしながら: 縫い目に沿ってしわを丁寧に伸ばしながら畳んでいきます。
  4. 本畳み(基本的な畳み方):
    • 身頃の縫い目(脇縫い)を基準に、前身頃を内側に折り畳みます。
    • 片方の袖を身頃の上に重ねるように折り畳みます。
    • もう片方の袖も同様に畳みます。
    • 着物全体を半分に折り畳みます。
    • 最後に、帯や小物と一緒に保管する場合は、その大きさに合わせてさらに半分に畳むこともあります。
  5. シワをつけない工夫: 畳む際に、生地の間に薄い和紙(たとう紙の一部など)を挟むことで、シワの定着を防ぐことができます。

ステップ3:最適な「保管場所」の選び方

着物を保管する場所は、着物の状態を左右する非常に重要な要素です。

  1. 湿度管理:
    • 理想は湿度50〜60%: 乾燥しすぎると生地が傷み、静電気が発生しやすくなります。湿度が高すぎるとカビの原因になります。
    • 通気性: 風通しの良い場所を選びます。壁にぴったりつけず、少し隙間を空けるなど工夫しましょう。
    • 除湿剤の活用: 衣装ケースや引き出しに入れる際は、着物専用の除湿剤を使用します。乾燥剤と防虫剤が一体になったものもあります。除湿剤は定期的に交換しましょう。
  2. 温度管理:
    • 急激な温度変化を避ける: 温度変化が大きい場所は、結露の原因となり、カビの発生リスクを高めます。
    • 直射日光を避ける: 色褪せの原因になります。
  3. 暗所: 光は着物の色褪せを促進するため、暗い場所で保管します。

ステップ4:適切な「収納用品」を選ぶ

着物を守るための収納用品選びも大切です。

  1. たとう紙(文庫紙):
    • 必須アイテム: 着物を一枚ずつ包むための和紙です。吸湿性・通気性に優れ、着物を湿気や汚れから守ります。
    • 交換時期: たとう紙は黄ばんだり、シミができたりしたら交換しましょう。新しいものは吸湿性が高く、着物をより良く保護してくれます。
    • 使い方: 着物を裏返しに畳み、たとう紙に収めます。防虫剤はたとう紙の外側、または着物に直接触れないように置きます。
  2. 桐箪笥(きりだんす):
    • 最良の選択: 桐は湿度を自動で調整する機能(調湿作用)があり、防虫効果も期待できるため、着物の保管に最適な素材とされています。
    • 選び方: 無垢材の桐箪笥を選び、定期的に風通しをすることで、その効果を最大限に引き出せます。
  3. 衣装ケース:
    • プラスチック製: 気密性が高く、防湿対策がしやすいですが、通気性が悪いため、除湿剤や防虫剤を必ず併用しましょう。
    • 不織布製: 通気性があり、比較的安価ですが、防湿性や防虫性は劣ります。簡易的な保管や、一時的な保管に向いています。
    • 使い方: たとう紙に包んだ着物を平らに重ねて収納します。重ねすぎると着物に負担がかかるため、3〜5枚程度に留めましょう。
  4. 防虫剤:
    • 種類: ナフタリン、パラジクロルベンゼン、ピレスロイド系などがあります。近年はピレスロイド系の「無臭タイプ」が主流で、着物に匂いがつきにくいのが特徴です。
    • 使い方: 防虫剤は、必ず着物に直接触れないように、たとう紙の外側や収納ケースの隅に置きます。また、異なる種類の防虫剤を併用しないでください。化学反応を起こして着物にシミや変色をもたらす可能性があります。
    • 交換時期: 防虫剤には使用期限があります。パッケージに記載された期間を過ぎたら、必ず新しいものに交換しましょう。

季節の変わり目に行う「虫干し」と「定期点検」

「虫干し」は、着物にとって最も重要なお手入れの一つです。

年に数回、定期的に行うことで、湿気や虫食いを防ぎ、着物の状態を良好に保てます。

虫干しのタイミングと方法

虫干しは、湿度が低く、空気が乾燥している晴れた日に行うのが最適です。

  • 春の虫干し(3月下旬〜4月下旬頃): 暖かくなり始める時期で、冬の間にこもった湿気を飛ばします。
  • 秋の虫干し(10月下旬〜11月下旬頃): 夏の間にこもった湿気を飛ばし、本格的な冬の保管に備えます。
  • 梅雨明けの虫干し(7月下旬〜8月上旬頃): 梅雨の多湿な時期を乗り越えた後の湿気を飛ばすために行います。

虫干しの方法:

  1. 晴れた日の午前中から行う: 湿度が低い午前10時〜午後3時頃までが最適です。
  2. 風通しの良い日陰に干す: 直射日光の当たらない、風通しの良い部屋や縁側、または物干し竿に着物用ハンガーでかけます。
  3. 半日から1日程度干す: 短時間でなく、しっかりと湿気を飛ばすために半日から1日程度干しましょう。裏返して干すと、裏地の湿気も飛びやすいです。
  4. 状態を再度確認: 虫干しをしながら、改めてシミやカビ、虫食いがないか点検します。もし異常を見つけたら、すぐに専門家に相談しましょう。
  5. 新しい防虫剤とたとう紙に交換: 虫干しが終わったら、古い防虫剤は捨て、新しいものに交換します。たとう紙も、黄ばみや汚れがあれば新しいものに取り替えましょう。

年に一度の「総点検」と「お手入れ計画」

虫干しを兼ねて、年に一度は全ての着物を収納場所から出して、徹底的に点検する「総点検」を行いましょう。

  1. リストアップ: どんな着物を所有しているか、リストアップしておくと管理がしやすくなります。
  2. 着用履歴の確認: 前回いつ着用したか、クリーニング履歴はどうかなどを確認します。
  3. 状態の評価: カビ、シミ、虫食いの有無だけでなく、生地の風合いや色褪せがないかも細かくチェックします。
  4. お手入れの判断:
    • 軽微なシワ: 軽く蒸気を当てるか、専門家によるプレスで対応できます。
    • 汗ジミ: 専門家による「汗抜き」が必要です。
    • カビ・シミ: 専門家による「カビ取り」「シミ抜き」が必要です。
    • 虫食い: 軽度であれば「かけつぎ」などの補修が可能です。範囲が広い場合は難しいこともあります。
  5. 専門家への相談: 少しでも気になる点があれば、自己判断せず、必ず着物専門の悉皆屋やクリーニング店に相談しましょう。無理な自己処理は、着物をかえって傷めてしまう可能性があります。

着物の種類別・素材別収納のポイント

着物の種類や素材によって、特に注意すべき収納ポイントがあります。

1. 振袖・留袖(正絹)

  • 最もデリケート: 高価で豪華な装飾が施されていることが多いため、最も丁寧なケアが必要です。
  • 汗抜き・シミ抜き: 一度着用したら、目に見えなくても必ず専門家による「汗抜き」を検討しましょう。特に留袖は黒地が多いため、汗ジミの黄変が目立ちやすいです。
  • たとう紙: 必ず一枚ずつ新しい良質なたとう紙に包み、大切に保管します。
  • 収納場所: 桐箪笥が理想的ですが、ない場合は防湿・防虫対策を徹底した衣装ケースに、一番上に平らに重ねて保管します。

2. 訪問着・付け下げ・色無地(正絹)

  • 着用頻度とケア: 振袖や留袖より着用頻度が高いこともありますが、同様に丁寧なケアが必要です。
  • 汗抜き: 式典やパーティーで着用した場合は、必ず汗抜きを行いましょう。
  • 畳み方: 紋がある場合は、紋のシワにならないよう注意して畳みます。

3. 小紋・紬(正絹)

  • 日常使い: 比較的日常的に着用する機会が多い着物です。
  • お手入れの頻度: 着用回数にもよりますが、年に1回程度は専門家によるお手入れ(ドライクリーニング+汗抜き)を検討すると良いでしょう。
  • 防虫対策: 虫食いの被害に遭いやすい素材でもあるため、防虫剤の管理は特に重要です。

4. 木綿・麻の着物

  • 自宅で洗濯可能: 正絹と異なり、多くの木綿・麻の着物は自宅で水洗いできます。洗濯表示を確認し、手洗いまたは洗濯機のデリケートコースで洗いましょう。
  • 乾燥: 洗濯後は形を整えて陰干しし、しっかりと乾燥させます。生乾きの状態で収納するとカビの原因になります。
  • アイロン: シワになりやすいので、アイロンで整えてから収納します。
  • 防虫対策: 虫食いがないわけではないので、正絹同様に防虫剤は使用しましょう。

5. 浴衣

  • 着用後の洗濯: 浴衣は通常、着用後に自宅で水洗いします。洗濯表示を確認し、色落ちに注意して洗いましょう。
  • 乾燥: シワを伸ばして陰干しし、完全に乾かします。
  • 収納: たとう紙に包んで収納するのが理想的ですが、普段使いの場合は清潔な収納ケースに畳んで保管しても構いません。

着物収納の「やってはいけない」こと

大切な着物を守るために、避けるべきNG行動も知っておきましょう。

  1. 着用後すぐに畳んでしまう: 汗や湿気がこもり、カビやシミの原因になります。必ず陰干しをしてから畳みましょう。
  2. 汚れたまま放置する: 汚れやシミは時間が経つほど落ちにくくなり、黄ばみや変色へと変わります。早めの対処が鉄則です。
  3. 異なる種類の防虫剤を併用する: 化学反応を起こし、着物を傷める可能性があります。必ず一種類に統一しましょう。
  4. 防虫剤を着物に直接触れさせる: 変色やシミの原因になります。たとう紙の外側や、防虫剤専用のケースに入れて使用しましょう。
  5. 湿気の多い場所や直射日光の当たる場所に保管する: カビ、シミ、色褪せ、生地の劣化を招きます。
  6. ビニール袋に入れて保管する: ビニールは通気性が悪く、湿気を閉じ込めてしまうため、カビの温床となります。一時的な持ち運び以外では使用しないようにしましょう。
  7. ぎゅうぎゅうに詰め込む: 着物に負担がかかり、シワや型崩れの原因になります。適度なゆとりを持たせて収納しましょう。
  8. 長期間「虫干し」をしない: 湿気や虫食いのリスクが高まります。年に数回は必ず行いましょう。
  9. 自己流のシミ抜きを試みる: 着物は非常にデリケートなため、専門知識がないままシミ抜きをすると、かえってシミを広げたり、生地を傷めたりする可能性があります。

プロが教える「湿気・虫食い」対策の秘訣

これまで述べてきた基本に加え、プロが実践するより具体的な対策をご紹介します。

1. 除湿対策の徹底

  • 除湿剤の活用: 衣装ケースや桐箪笥の引き出しには、必ず着物専用の除湿剤を入れましょう。定期的な交換が重要です。
  • 新聞紙: 衣装ケースの底に敷くことで、ある程度の吸湿効果が期待できます。ただし、新聞紙のインクが着物に移らないよう、たとう紙の外側に敷くか、薄い和紙などを間に挟むようにしましょう。
  • 扇風機や除湿器の活用: 部屋の湿度が高い場合は、扇風機で空気を循環させたり、除湿器を活用して湿度を下げることも有効です。

2. 防虫対策の徹底

  • 収納前の徹底的な掃除: 収納場所(箪笥の引き出しや衣装ケース)は、収納前にホコリやゴミを徹底的に取り除きましょう。特に隅々まで掃除機をかけ、拭き掃除をすることで、害虫の卵や幼虫を排除できます。
  • 清潔な環境: 着用後の汗や汚れは害虫のエサになります。必ず綺麗にしてから収納しましょう。
  • 定期的な点検と防虫剤の交換: 防虫剤の効果は永続的ではありません。使用期限を確認し、忘れずに交換しましょう。
  • 天然素材の防虫剤: 化学物質に抵抗がある場合は、ヒノキや樟脳(しょうのう)、ラベンダーなどの天然素材の防虫剤(防虫効果のある香り袋など)を利用することもできます。ただし、効果の持続期間や効力は化学防虫剤に劣ることがあるため、こまめな交換や点検が必要です。

3. 通気性の確保

  • 衣装ケースの隙間: 衣装ケースを壁にぴったりつけず、数センチの隙間を空けて設置することで、空気の循環を促せます。
  • 年に数回の虫干し: やはり虫干しが最大の通気性確保の手段です。

プロが教える着物収納術まとめ

着物収納は、決して難しいことではありません。適切な知識と少しの愛情を持って接することで、大切な着物は何十年、何百年と美しさを保ち、次の世代へと受け継がれていくことができます。

  • 着用後の「風通し」と「点検」を怠らない
  • 正しい「畳み方」をマスターする
  • 「湿度・温度・光」に配慮した「保管場所」を選ぶ
  • 「たとう紙」「桐箪笥」「適切な防虫剤」を活用する
  • 季節の変わり目には「虫干し」と「定期点検」を行う

これらのポイントを実践することで、あなたは大切な着物を湿気や虫食いから守り、いつでも最高の状態で着用できるプロの収納術を身につけることができます。

美しい着物を長く愛用し、日本の伝統文化を未来へと繋いでいくために、ぜひ今日からあなたの着物収納を見直してみてください。

(記事制作者:廣田 )

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